膜電位

ヒトやその他の生物は、視覚とか聴覚などの感覚をフルに利用して、外界に適応し、生き続けてきました。魚類、両生類、は虫類が地球上に生存し続けたおかげで、ほ乳類が誕生しました。

このコーナーでは、感覚器官で得られた情報が、細胞膜のごく周辺で生じている電気的な変化つまり活動電位に変換されるメカニズムについて考えてみます。また、この電気的な信号が、脳の各エリアに到達し、神経細胞またはシナプス(神経接合部)に変化をもたらすことについても考えます。

膜電位

膜電位とは聞き慣れないものです。全ての細胞で、細胞膜の内と外でイオンの組成が異なります。そのため、電荷を持つイオンの分布の差が、膜電位の発生に関係します。(電荷については、次のURLで勉強してください。http://www.wakariyasui.sakura.ne.jp/p/elec/seidenn/dennka.html)

ゾウリムシの繊毛が動いたり、オジギソウの小葉が触れることで閉じることも、膜電位の変化によるものらしいです。このように、膜電位とその変化は、単細胞生物や植物細胞にも存在する、生物共通の基本原理といえるでしょう。ただし、植物や菌類の静止膜電位は細胞内から細胞外へH+ポンプによってH+が排出されることで細胞内がマイナスとなっています。動物と植物、菌類の静止膜電位形成機序が異なるのは何故でしょうか。進化の謎が潜んでいるのでしょう。

なぜ、膜電位があるのでしょうか。また、必要なのでしょうか。

 

まず、細胞膜があることで、細胞は内部に必要なモノをため込むことができ、不必要なモノを積極的に排出することができます。細胞が生き抜くための環境を整備しています。

次に、細胞膜内外に、大きな電位の差を作っておくことで、その電位の差を利用して、非常に速い情報の伝達が可能になります。

つまり、電位をダムにたとえると、電位差は水位差、イオンチャネルが水門になり、電気的エネルギーは水力発電になります。

水門を一気に開くことで、水位差が大きければ、水力発電の力は大きいでしょう。

同じように、イオンチャネルを開くことで、大きな電位差があれば、大きな電気的駆動力が生み出せます。

ちなみに、電位差のある領域は、細胞膜の周辺2〜3nmで、電位差はー70mVです。(1nm=1.0 X 10 の−7乗 ?cm)

乾電池の高さにした場合、5cmなので、1750kV の乾電池と同じようです。かなり強大な起電力が生まれているようです。

 

では、細胞膜内外に電位差を作り出す細胞膜の特徴はなんでしょうか。

細胞膜はリン脂質というものが二重に層をなしています。一層が親水部分と疎水部分でできています。親水部分は、水となじみ、水に溶けるモノとひっつきやすいです。疎水部分は、文字の通り、水にとけないものです。油とひっつきやすいです。

専門的なお話では、構造中に疎水性の脂肪酸エステル部位と親水性のリン酸アニオン部位が共存するために、リン脂質は界面活性剤のような両親媒性を示し、水中では外側に親水性部を向けて疎水性部同士が集まることでベシクル状の安定な脂質二重層を形成します。

ここで、大事なことがあります。イオンと脂質は相性がよくないです。つまり、電荷を持つモノ(イオン)と電荷をもたない(脂質など)ものは、だめなんです。

一方、電荷をもたない、プラスまたはマイナスがない分子は、この膜を簡単に通過します。

ですから、イオンにとっては、細胞膜は壁です。

左のアニメをみてください。Na,Kイオンはとおりません。極性のない、CO2,O2は通ります。水は極性がありますが、分子量が小さいため、ゆっくりと通過します。グルコースは、極性がありませんが、分子量が大きいため、ゆっくりと通ります。

 

 

 

イオンの濃度差が、どのようにしてできるのでしょうか。

 

Na+イオンを細胞内から細胞外にくみ出し、K+イオンを細胞外から細胞内にくみ込めば、細胞外にNa+イオンが多くなり、細胞内にK+イオンが多くなります。これで、イオンの濃度差ができます。

くみ出すためには、ポンプが必要です。これをイオンポンプといい、代表的なモノはナトリウムーカリウムポンプです。

緑色がNaKポンプを表します。ポンプを動かすエネルギーは、ATPです。このNaKポンプを動かすために、生物は全ATPの30%使用しているそうです。

ATPがポンプにくっつき、ADPとリン酸になります。この間、放出されたエネルギーで、細胞内のNaイオン3個がくっつき、ポンプが動きます。同時に、細胞外のKイオン2個がくっつき、細胞内に移動し、NaとKイオンがくっついた部分が変形し、細胞外に3個のNaイオンと細胞内にKイオン2個が増えます。

 

 

イオンの濃度に差があるなら、はじめから、電位差が生じていると考えられますが、違うんです。

ここで、細胞内と細胞外それぞれを分けて考えたとき、電荷を持つイオンが沢山あるけれど、全体としては電気的に、細胞内も外もそれぞれプラスマイナス同じです。

「容積の電気的中性の原理」というものがあり、ある溶液中のプラス電荷の数は、同じマイナス電荷で常に釣り合いがたもたれているというものです。すべての細胞は、細胞内液や外液もこの原理に従います。

実際には、

膜電位は細胞膜のごく近傍で移動するほんのわずかの電荷で形成されています。

ですから、細胞内液および外液の大きな容積内での分布に対する影響は、無視できるほど小さいのです。

もし、溶液中に電気的に偏りがあれば、安定した状態を維持することはできません。ですから、細胞内外でイオンの濃度差はありますが、それだけでは膜の間で電位差は生まれないのです。  ややこしい話をしました。どうも。

この状態では、細胞内も細胞外もプラスとマイナスが、それぞれ同量のため、膜に電位が発生しません。

ここで、膜にあるチャネルがあります。リークチャネルです。常時、チャネルは開いているようです。

このチャネルは、K+イオンだけを選択的に通過させます。

細胞外には、K+イオンが非常に少ないため、濃度勾配(これを化学勾配ともいう)に従って、K+イオンは自然とチャネルを通り、細胞外に出て行きます。

出て行く数は、細胞内外で濃度が同じになるまでではありません。

細胞内の陰イオンが、Kイオンを引きつけることができるまで、細胞外に出て行き、濃度に差があっても、それ以上は出て行きません。

このことを、電気的勾配と言い、最終的には、この2つの勾配の総和、つまり、電気化学的勾配でKイオンの移動が行われます。

 

 

 

 

 

 

 

 

静止膜電位

リークチャネルからK+イオンが細胞外に流出することで、細胞内にマイナスイオンが多くなり、これで静止膜電位は、−70mVになります。

次に、下のアニメにあるように、膜に、ある刺激(矢印)が加わると、膜に局所的な脱分極、つまり、細胞内の電位がすこしマイナスからプラスに移行し、電位がかわります。

すると、細胞の表面の膜にある電位依存性Na+チャネルが開きます。細胞外のNa+イオンは濃度勾配および電気的勾配に従って、細胞内へなだれ込みます。Na+が流入することで、膜電位の負電荷が減少するに従い、さらにNa+チャネルが開き、Na+が流れ込みます。膜電位が逆転し、内側がプラスになります。これも脱分極です。分極、つまり、膜内外で、プラスとマイナスに分かれていた状態から、脱したことになります。

ここで、注意することがあります。この現象は、活動電位のどの段階においても、きわめてすこしのイオンの移動しか生じていず、細胞内外でのNa+とK+イオンの濃度の変化は無視できるほどきわめて小さいことです。

膜電位が+30mVぐらいになると、Na+チャネルの電位依存性チャネルが閉じ、Na+ の流入が終わります。これにわずかに遅れて、電位依存性K+チャネルが活性化し、チャネルが開きます。

細胞内のK+が、濃度勾配および電気的勾配に従って、細胞外に流れ出ます。これで、膜電位が逆転し再分極が起こります。

膜が十分再分極した後も、細胞外へのK+イオンの流出が続き、一時的に膜電位が通常の静止膜電位よりもさらに低くなります。これを過分極と言います。分極が過ぎたことです。