ウイルスについて
地球上に、数知れないウイルスがいます。人間と他の動物に感染するウイルス、人間以外の動物に感染するウイルスなど様々です。
人間に悪さをする4つのウイルスを下に示しました。これ以外に、人間に迷惑なウイルスはたくさんいます。
ポリオウイル
小児麻痺(急性灰白髄膜炎)
の病因ウイルス
ノロウイルス
細菌性急性胃腸炎を
引き起こすウイルス
インフルエンザウイルス ロタウイルス
乳児下痢症・嘔吐下痢症
の原因
(1)ウイルスと臓器(ぞうき)障害について
それぞれのウイルスは、それぞれ、くっつきやすい臓器が異なります。
つまり、ロタやノロウイルスは、腸内に住み着きやすいです。
インフルエンザウイルスは、気管支・のどの粘膜,心臓にくっつきやすいです。肝臓、腎臓の臓器には、なかなかくっつきません。
従来の季節型インフルエンザウイルスと異なり、新型インフルエンザウイルスは、肺にも悪さをするようです。
HB(B型)とかHC(C型)ウイルスは、主に、肝臓を悪くしますが、ほかの臓器に影響ありません。
1〜2歳で、風邪症状で発見されるRSウイルスは、呼吸器に影響ありますが、他の臓器に悪さはしません。
(2)ここで、ウイルスの大きさを見てみましょう
ウイルスはノロウイルスです。このウイルスは大きい方です。
広島市衛生研究所のホームページ「ウイルスを知ろう」のコーナーにある
図を改変http://www.city.hiroshima.jp/shakai/eiken/kan_center/k_topics/v_syiro/v_syiro-01/v_syiro-01.htm
ウイルスは大変小さく、電子顕微鏡でしか見えません。
細菌は普通の顕微鏡の1000倍で見えますが、ウイルスは1万倍でやっと見えます。
ノロウイルスを5000万倍に拡大すると、ちょうど身長1.8mの人間
になります。
身長1.8mの人間を5000万倍に拡大すると、巨大な人間ができます。地球が7個分並ぶ背丈の人間です。
つまり、身長1.8mの人間にとって、ウイルスは5000万分の1の大きさです。
ウイルスが身長1.8mの大きさと考えると、人間は月に到達する距離の4分の1の背丈になります。
ウイルスがとてつもなく、小さいことがわかるでしょうか。
それでは、ウイルスが侵入した私たちの細胞は、いかにしてウイルスと戦うのでしょうか。
細胞外ではマクロファージと白血球がウイルスを食べます。
くすりは効き目がありません。
何故だと思いますか。
ウイルスは、私たちの生きた細胞にはいりこみ、増えます。
ウイルスを殺す薬物は私たちの体も殺すことになります。
ウイルスを殺すことは、私たちの細胞も傷つけることになるからです。
やっかいです。
(3)さて、ウイルスは、どのようにして、私たちの細胞に入り込むのでしょうか。
インフルエンザウイルスを例に、見てみましょう。
インフルエンザウイルスは、感染している人の痰(たん)の中に、多くいます。
くしゃみやせきで、周りにウイルスが飛びます。
これを吸ったとき、感染しやすいです。
また、インフルエンザにかかった人が触(さわ)ったものに触れて、自分の口元に汚れた手をもっていくと、感染しやすいです。
インフルエンザウイルスが気管上皮細胞に接します。
気管上皮細胞はウイルスに結合しやすい細胞膜を持つため、ウイルスを細胞内に取りこみます。
他の異物(いぶつ)もウイルスと同じように、取りこまれることがあります。
細胞内で、ウイルスはエンドソームという小さな袋(ふくろ)に閉じこめられます。多くの場合、ここで取りこまれたものは分解されますが、ウイルスは分解されず細胞内に出ていきます。
ウイルスを形作る遺伝子(いでんし)が核に移動し、核内で、ウイルス自体の遺伝子がたくさん作られ、ウイルスの蛋白質を作るmRNAも作られます。
mRNAの働きでウイルスの蛋白質がたくさん作られます。
たくさん作られたウイルス遺伝子と蛋白質は、細胞膜に移動します.. 細胞膜にウイルスの蛋白質がくっつき、遺伝子を取り囲み、細胞からでていきます。
出芽(しゅつが)と言います。
体細胞内から、インフルエンザウイルスがでていく様子です。
出典元:東京大学医科学研究所感染症国際研究センター
      野田岳志、河岡義裕先生
感染・炎症・免疫 医薬の門社 winter vol.36.-4. p 40

多数のウイルスが細胞内からでていくところを邪魔する薬です。
(4)次に、樹状細胞が、ウイルスを取りこむ仕組みをアニメで簡単に見てみましょう。
思い出そう。 
人間にとって、異物であるウイルス、細菌またはカビなどが体内に入ったとき、
@MHCクラス2分子の反応
下のアニメは、樹状細胞を表しています。緑色の丸いものが、ウイルスに感染し死んだ細胞です。
当然、細胞が死んでいるためウイルスは増えません。その残りかすを茶色で示しました。
取りこまれたウイルスの変化を見て下さい。
樹状細胞のなかでは、ウイルスは増殖できません。増殖できない構造(こうぞう)があります。ウイルスは細かくなり、その一部がMHCクラス2分子というものにくっつき、細胞膜の外に顔をだします。
この樹状細胞がウイルス(抗原)を呈示したことになります
変形したMHCクラス2分子に、ヘルパーT細胞はくっつきやすくなります。
ヘルパーT細胞から、サイトカインという物質がでます。
(獲得免疫を見て下さい。)
AMHCクラス1分子の反応
ナイーブキラーT細胞という細胞がヘルパーT細胞からでたサイトカインに反応し、また樹状細胞からでたサイトカインに反応します。
ナイーブキラーT細胞という細胞が現れます。
この細胞は、樹状細胞にもあるMHC1がウイルスの残りかすをつかまえた状態に反応します。
このように、樹状細胞の中では、ウイルスの残りかすに対して、
MHC1分子と反応したナイーブキラーT細胞は、元気になります。
BナイーブキラーT細胞のキラーT細胞への反応
元気になったナイーブキラーT細胞は、キラーT細胞を元気にします。
元気づいたキラーT細胞はなにをするのでしょうか。
キラーT細胞は、日頃、活動していません。
ナイーブキラーT細胞からでたサイトカインがキラーT細胞を元気にします。
元気なキラーT細胞は、傷ついた細胞を処理します。
つまり、ウイルスが増殖した細胞とか細菌の毒素でやられた細胞とか癌(がん)に侵された細胞をかたずけます。
これによって、ウイルスや癌が広がることを防ぎます。
リンパ組織のなかで、サイトカインはキラーT細胞を元気づけます。
ウイルスが増えた細胞内では、ウイルスがある大きさに切断されます。
断片は、MHCクラス1分子にくっつきます。これが細胞の外に顔を出します。
ナイーブキラーT細胞から出たサイトカインで元気になったキラーT細胞は、この変形したMHCクラス1分子にくっつきます。
このあと、キラーT細胞から物質が出て傷ついた細胞をかたずけます。
ウイルスにやられた細胞
キラーT細胞がウイルスにやられた細胞にくっつくと、パーホリンという物質が出ます。
パーホリンは、細胞膜にあなをあけます。
あいたあなを通して、グランザイムという物質がキラーT細胞から、傷ついた細胞に入ります。
グランザイムは私たちの傷ついた細胞をさらに傷つけてかたづけます。
 
ウイルスがやられるしくみ
ウイルスが体内にはいる

細胞はウイルスに
傷害(しょうがい)される。
細胞からウイルスの
断片がでる


樹状細胞がウイルス
を見つける
ウイルスの断片を取りこんだ樹状細胞
にヘルパーT細胞が反応する。

元気になったナイーブキラーT細胞は、キラーT細胞を元気にする。

同じ樹状細胞で、ナイーブキラーT細胞が
反応する。

元気になったキラーT細胞はウイルスに傷害された細胞をやっつける。ウイルスも増殖できない。
5) MHCクラス1分子とMHCクラス2分子の違いはなんでしょうか。なぜ細胞によって、違うのでしょうか。
難しい話しです。
からだのほぼすべての細胞には、その人特有のMHCクラス1分子という目印があります。これは他人の細胞と区別する指紋(しもん)の様なものです。
ウイルスが増殖した細胞は役に立たないため、処理されます。このとき、キラーT細胞がMHCクラス1分子を目印に処理します。
一方、樹状細胞のように、ウイルスなどの異物、つまり、抗原をキャッチする細胞は、ウイルスが増殖できないシステムを細胞内に持っています。
また、樹状細胞は、MHCクラス2分子という目印を持つことで、キラーT細胞と反応せず、ヘルパーT細胞と反応することができます。
樹状細胞にくっつき元気になったヘルパーT細胞は、キラーT細胞を元気づけます。
このように、MHCクラス1分子とMHCクラス2分子の違いが、細胞の役割を表しています。
抗原と抗体の反応が続き、体が元気を取り戻したとき、樹状細胞のMHCクラス1分子に、キラーT細胞もくっつきます。
樹状細胞は、死にます。免疫の反応が終わるわけです。