聴覚について

 

聴覚の基本的なことは、「アニメで学ぶ子供のための医学」で、「音が聞こえるとは?」というタイトルで説明しました。

URLはhttp://www.skmc.jp/anime/child/ear/ear_index.htmです。

ここでは、音をいかに脳で感じているかを考えてみます。

後書きを、前に持ってきました。作成してみて、難しく感じました。皆さんに、おもしろく伝え切れていないと思います。あしからず。

鼓膜の振動は、耳小骨を介して内耳の外リンパに伝わります。

では、耳小骨のルーツってご存知でしょうか?

あくまでも学説ですが、この耳小骨、太古の昔、人類がまだ魚類だった時代は顎骨(あごの骨)だったそうです。
魚類が陸に上がり、ヒトへと進化して行く過程で・・・恐らくは生きていくために聴覚を発達させる必要があったのでしょう。あごの骨が音を聴くための骨に転用されていったようです。

つち → 槌 (兎が月のうえで持っているやつです)
きぬた→ 砧皮などをなめしたりするときのたたき台.多分,槌と砧を組にして考えたんだと思います。
あぶみ→ 鐙 これは形,そのままですね。

耳小骨の役割は、鼓膜のわずかな揺れを蝸牛の中に伝えることです。
ところが蝸牛というのは、中が液体で満たされていて、ちょっとやそっとの力では「空気の揺れ→鼓膜の揺れ」が伝わらないんです。
さらに困ったことに、蝸牛というのは、とてもデリケートな器官でもあるので、強い揺れ(大きな音)が入ってくると、今度は簡単に壊れてしまいます。

さあ、困りました!

この難題を解決しているのが耳小骨なんです。

鼓膜のわずかな揺れを強く正確に蝸牛に伝え、さらに大きな揺れは入れずに、弱くてデリケートな蝸牛を守る機能も併せ持つ、神様が創った最高傑作!

と言ったら言い過ぎかもしれませんが、これは、なかなかに良くできた精密機械なんです。
これらの機能のキーワードは、“てこ”と“面積の比”。
そして中耳筋(耳小骨筋)と呼ばれる、これまた小さな小さな筋肉なんです。

「つち骨」と「きぬた骨」、「きぬた骨」と「あぶみ骨」の間には関節があって、それぞれがまるで扉の蝶番のような動きをしています。
ここで、実際は「きぬた骨」は「つち骨」よりも短いので、ここの構造がちょうど“てこ”の役割を果たすのです。
さらに、鼓膜の面積は、あぶみ骨がくっついている蝸牛の外側の窓の面積よりも10倍以上大きいということが、とても強く作用します。

想像してみましょう。
鼓膜という大きな膜があります。
鼓膜の裏には、「つち骨」と「きぬた骨」が蝶番のような構造でくっついていて、長さは「きぬた骨」の方が短いわけです。
鼓膜が押されると、この構造が“てこ”のような働きをして力を強め、「あぶみ骨」に伝わります。

「あぶみ骨」は、小さな小さな、鼓膜の1/10以下の面積の窓に繋がっています。鼓膜にかかる圧力は20〜30倍に増幅し内耳に伝わります。
ここでは、尖がった鉛筆を想像してください。
先が尖がった鉛筆の芯の先を手の平に充てて、上から少しだけ押してみると・・・わずかな力なのに、すごく痛いでしょう?
大きな面積(鉛筆の底)に加わった力が、小さな面積(尖がった鉛筆の芯)に集中することによって、わずかな力が強いエネルギーとして伝わっているからです。
同じ事が、あなたの耳の中でも起きているのです。
鼓膜に加わった力が、小さな「あぶみ骨」に集中して強いエネルギーとなっているのです。

そして、耳小骨同士は、ただ、くっついているわけではありません。
お互いをくっつけるための、小さな筋肉があるんです。
この筋肉は、大きな音が入ってくると自動的に収縮して(縮まって)、今度は一転して耳小骨の動きを抑えます。
これは「中耳反射」と呼ばれる現象で、これがあるから、大きな音が入って来た時は、デリケートな蝸牛を守ることが出来るのです。

次に、内耳についてです。                                                            

 

 

 

内耳は、骨迷路と膜迷路でできています。

聴覚と平衡覚の役割を担っています。

聴覚に関係する神経は蝸牛神経、平衡覚に関係する神経は、前庭神経です。

この2つの神経は、合流して内耳神経になります。

wikipediaから引用しました。

 

 

 

 

 

 

 

骨迷路とは、蝸牛、骨半規管と前庭を指します。

 

膜迷路は、上の絵で、青色の部分です。

骨迷路の中にある柔らかい膜性の閉鎖した管です。その中に、内リンパが満たされています。骨迷路とほぼ似た形をし、

蝸牛管は、蝸牛の中に、

卵形嚢と球形嚢は前庭の中に、

半規管は骨半規管の中に各々収まっています。

これらは、骨迷路に比べはなはだ細く、骨壁から離れて外リンパの中に浮かんでいます。下の絵は、膜迷路を表しています。ねずみ色の物が、耳小骨です。この膜迷路の中には、内リンパ液が含まれています。

 

gettingimagesから引用

wikipediaから引用

上の図は、蝸牛を、蝸牛のてっぺんから輪切りに見た断面です。wikipediaから引用しました。蝸牛は3階建てのトンネルになっています。

同様の図を、下に示しました。

                                

蝸牛は、鼓室階と前庭階と中央階(蝸牛管)に分かれています。

鼓室階と前庭階の中は、外リンパ液が流れています。中央階の中は、内リンパが流れています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に、蝸牛内での音波の伝わり方を示します。

アブミ骨からの振動は、前庭階の外リンパに伝わります。下のアニメは、蝸牛の内部をのぞいたものです。赤色の矢印で示すように、外リンパの振動は蝸牛孔まで行きます。

てっぺんの鼓室階から音波は減衰し、下に下り、青い矢印で示すように、第二鼓膜に到達します。

紫色で表した三角形の部分が、蝸牛管になります。

蝸牛管の両側は、閉じています。前庭部で細い結合管がでて、球形嚢と連絡しています。

 

 

 

 

 

 

 

蝸牛管のなかに、音を受け取る受容器があります。下の図のコルチ器です。上のアニメの三角形の部分を拡大しました。

音の波が、前庭階の外リンパに伝わると、中央階の内リンパも振動します。

このとき、前庭階と中央階の間の膜は、堅いため、振動せず、コルチ器の下にある基底膜が、大きく揺れます。

wikipediaから引用しました。

 

 

 

 

ここに基底膜があります。

 

 

下に示した蝸牛の横断面のアニメで、前庭階の外リンパが振動することで、中央階にあるコルテイ器の基底膜が振動し、内有毛細胞と外有毛細胞の先端に、各々ある感覚毛が屈伸します。この機械的な刺激で、感覚毛の機械需要チャネルが開閉し、活動電位が発生します。この電気信号は、神経を介して、脳に伝わります。

 

 

 

 

 

 

 

 

基底膜の振動で、音の高低が決まります。

有毛細胞には、内有毛と外有毛の2種類があります。内有毛は、音を受け取り、外遊毛は、音の感度を調節します。ヒトの場合、1つの蝸牛には、約3500個の内有毛細胞、1万2000個の外有毛細胞があるそうです。

まずは、内有毛細胞についてです。

最初に音波が伝わる前庭窓付近の蝸牛底では、基底膜は、幅が狭く堅いため、高い周波数(200000ヘルツ)に同調します。蝸牛のてっぺんである蝸牛頂に向かうにつれ、幅が広く柔らかくなります。低い周波数(100ヘルツ以下まで)に同調します。

外リンパの振動は、その周波数に同調する基底膜の特定の部位を最もよく振動させます。

基底膜の特徴によって、音の高低を聞き分けます。下の図を見てください。

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つぎに、蝸牛管で、活動電位が発生する仕組みです。

もともと、前庭階と中央階の電解質組成は大きく異なっています。

前庭階と鼓室階を流れる外リンパ液は、細胞外液とよく似た電解質組成です。

中央階に流れる内リンパ液は、細胞内液と似ています。

蝸牛管を拡大しました。

                          

                                                     

前庭階のNaイオンは130mM、Kイオンは7mM、電位は0mVです。中央階のNaイオンは1mM、Kイオンは160mM、電位は80mVです。明らかに、Kイオンは、中央階で多量です。

有毛細胞の感覚毛には、機械受容チャネルがあり、基底膜の揺れで、このチャネルが開きます。

内リンパでは、濃度勾配に従って、開いたチャネルに高濃度のKイオンが、流れ込みます。これによって、脱分極が起こります。

左のアニメを見てください。青い部分が、内リンパがある中央階です。基底膜の振動で、有毛細胞が折れ曲がります。この機械的な刺激で、機械受容チャネルが開き、Kイオンが細胞内に流入し、脱分極という現象が起こります。−60mVの電圧が0mV付近まで、上昇します。すると、電位依存性Caイオンチャネルが、開きます。外リンパに、たくさんあるCaイオンが、細胞内に流入します。

これで、膜電位が変化し、丸いシナプス小胞が開口し、小胞内にある伝達物質が分泌されます。この物質は、グルタミン酸です。

後シナプスに、取り込まれたグルタミン酸が求心性線維、つまり、大脳に向かう神経を興奮させ、さらに、活動電位を発生させます。(活動電位については、今後、詳しく説明します。)

外有毛細胞についてです。

この細胞は、内有毛細胞と同じように、脱分極したとき、つまり、興奮したとき、基底膜の振動を大きくし、コルチ器の感度と音の周波数を同調しやすくします。もうすこし、詳しく説明すると、音刺激により基底膜が振動すると、外有毛細胞の頭部に生えている聴毛がずれ運動を生じ、それがきっかけでカリウムイオンが流入して細胞が脱分極し、さらに、基底膜を大きく振動させるようです。

また、外有毛細胞に分布するオリーブ蝸牛束の遠心性線維は、脳からの指令で、外有毛細胞を過分極させます。つまり、興奮を抑えることもできます。

つまり、内有毛細胞で音を聞いたとき、小さな音の場合、外有毛細胞が興奮して、大きい音に増幅させます。

異常に大きな音の場合、脳からの遠心性線維で、興奮を抑え、小さな音に修正します。

もし、外有毛細胞の働きがないと、音は聞こえますが、話の内容がはっきりとはわからないことになります。

外有毛細胞と内有毛細胞の解剖です。

Audiology Japan 59,161~169,2016から引用

 

 

 

 

 

 

次に、コルチ器で、音波が活動電位に変換された情報は、脳でどのように処理されるでしょうか。音波というアナログのデータは、コルチ器でデジタルデータに変換されています。 

っw最も単純な経路は、4個のニューロンを介して、大脳皮質の聴覚野に流れます。@最初に、一次ニューロンは、内有毛細胞とシナプスを作り、有毛細胞の情報を活動電位に変換します。細胞体の蝸牛神経節から軸索が伸びて、延髄の蝸牛神経核に終わります。A蝸牛神経核の軸索は、延髄内で交叉し、外側毛帯を通って、下丘に行きます。B下丘からさらに軸索が伸びて、内側膝状体に行きます。Cここから、聴覚野にいきます。

聴覚の神経路では、全ての大脳に向かう神経は、必ず、下丘を通ります。

また、聴覚の神経の道筋は、脳幹内での左右の交叉が多いです。大脳のレベルでも、脳梁を介して、左右で連絡しています。

聴覚中枢には、多くの側副経路があります。たとえば、蝸牛神経核から、一部は、同側と対側の上オリーブ核に連絡しています。また、脳幹網様体賦活系にも連絡し、大きな音に対して、神経系全体を興奮させます。

外有毛細胞に分布するオリーブ蝸牛束の遠心性線維は、上オリーブ核から、蝸牛神経内を遠心性、つまり、中枢から耳に向かって、走ります。蝸牛の活動をおさえる働きがあり、強い音響下で、蝸牛を守ります。色々な経路が左右、上下につながっています。

次に、いろいろな周波数の音波が、電気的な信号(活動電位)に変換され、神経を伝わり、中枢に行きます。このとき、それぞれの周波数に対応して、蝸牛神経が分布し、蝸牛神経核の中も、神経が整列しています。わかりづらいので、下のアニメを見てくださ

い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に、聴覚野です。蝸牛神経核から延髄の上オリーブ核を経由し、中脳の下丘を通り、内側膝状体を経て、一次聴覚野に至ります。

ここでも、大雑把に言うと、低周波数(だいたい100Hz)の音に反応するニューロンは一次聴覚野の背側、高周波数(だいたい20kHz)の音に反応するニューロンは内側にあり、担当する周波数が異なるニューロンを介して整然と、大脳皮質上にグラデーションを描くように配置されています。左の図にあるように、一次聴覚皮層が聴覚野で、左右の側頭葉に存在し、そのまわりに、聴覚連合野なるものがあり、さまざまな音に対して、調節しています。聴覚は、視覚に比べて、神経が入り乱れているようです。