活動電位の伝導のあれこれ 

さて、活動電位は、神経繊維を移動していきます。これを伝導といいます。

まずは、神経繊維の太さは、どれくらいでしょうか。ほ乳類の神経では、0.5〜20ミクロン(=マイクロメートル)です。

ここで、長さの単位について、整理しておきます。

1ミクロンは1000分の1ミリで、1マイクロメートルと同じです。記号μ 

1μ=1μm=10(-/)6m=10(-/)3mm。1967年の国際度量衡総会で、ミクロンという名称とμの記号は廃止され、1997年10月より1μのかわりに1μm(マイクロメートル)を使うよう改められました。

25歳以上の日本人は、ミクロンになじみがあり、ミクロン単位物体の例としては、直径が数ミクロンの赤血球白血球などを挙げることができます。

ミクロンの英語の発音は「ミクロン」よりもむしろ「マイクロン」に近いです。ただし日本語の中で長さの単位を「マイクロン」と表記することは稀といえます

             神経軸索の太さとクモの糸

aは蜘蛛の糸で、bは神経軸索です。蜘蛛の糸が5〜15ミクロンで、神経は0.5〜20ミクロンで、蜘蛛の糸とほぼ同じです。

 

活動電位が、軸索を伝わっていくしくみについて、いろいろと意見が異なるようです。

おそらく、2つの説があると思います。

一つは、軸索内に電流が流れている(局所電流)という考えです。

興奮部位の周囲で局所電流によって生じた電位変化が、その部分の電位依存性Naイオンチャネルの閾値以上になったとき、Naイオンチャネルが開口しNaイオンが細胞内に流入し、周辺領域に新しい活動電位が生じる考えです。

ここで、大事なことがあります。細胞内に生じる局所電流は、電子でなくイオンの流れです。電流とは、電荷の移動を表し、電子でなくてもいいわけです。生理学での生体内の電流とは、電子ではなく、イオンが移動することで起こる電荷の移動です。高校の教科書で、活動電流という言葉が出てきますが、これは間違いです。

金属物質に存在する自由電子の移動や電気回路を思い浮かべて、電流を考えると、生体内での電子以外の媒体によって生じる電荷の移動を電流と呼べない感覚はありそうです。

 

もう一つは、軸索内に電流は流れない。

パルス理論に基づいて、陽イオンの波、すなわち脱分極の波がイオン自身の移動を経ることなしに遠くまで伝わり、近傍の区域に脱分極を生じさせ、Naイオンチャネルが開くと考えているようです。

ある区域で脱分極により電位依存性Naイオンチャネルが開き、Naイオンが拡散により、細胞内に流入します。流入した陽電荷をもつNaイオンは、静電気的反発により、付近の陽イオンを周りに押しやり、同時に付近の陰イオンを引きつけます。その結果、上述したように、陽電荷の波が生じます。

 

さてさて、どちらの考えが正しいのでしょうか。大多数は、軸索内に電流が流れていると考えているようです。

果たして、そうでしょうか。電流は流れていないという説は、https://nori-take.wixsite.com/choyaku2013

このサイトをご覧ください。”跳躍伝導の本当のお話”というタイトルです。

また、Wikipediaの活動電位の伝導の項目で、”脱分極の波がイオン自身の移動を経ることなしに遠くまで伝わることとなる”と記載され、間接的に電流は流れていないと解釈されます。下のサイトをご覧ください。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B4%BB%E5%8B%95%E9%9B%BB%E4%BD%8D

それでは、

まずは、電気が流れているという考えに沿って、活動電位の伝わり方を解説してみます。(あまり、自信はありません。)

下の図では、黄色の矢印で、細胞膜に刺激が加わります。この刺激による脱分極で、電位依存性Naイオンチャネルが開きます。細胞外からNaイオンが流入し、細胞膜の内側で、+で示したように、大量の陽イオンが密集します。ここで、活動電位が生まれます。その後、従来通り、再分極まで進みます。

この間、これらの陽イオンが右隣の陰イオンに引き寄せられまたは移動し、その場所の電荷状態がプラスに傾き、2番目の電位依存性Naイオンチャネルが開き、活動電位が移動したことになるようです。

下のアニメで、陽イオンが右方向に移動した様子をあらわしたつもりです。見えませんか。

左から2番目の電位依存性Naイオンチャネルが開くタイミングは、最初の活動電位が下がり始め、チャネルが開く閾値になったとき、Naイオンが流入します。

注釈)アニメで示した細胞膜内外のプラスとマイナスの変化は、イオンの電荷を表し、電位ではありません。

 

ここで、これらの現象を整理しているテキストがありました。「これでわかるニューロンの電気現象」酒井正樹 著

です。このテキストでは、軸索内に電流が流れることを示しています。

以前示した活動電位は、横軸が時間で縦軸は電位を表していました。上述した活動電位の変化は、横軸が場所で縦軸は電位です。この違いは、混乱しないようにしてください。

 

次に、電流などは、流れていないという説です。

下の図を見てください。しのたけさんの話から、参照。

ここで、赤線は細胞膜を表し、SはNaイオンが流入する場所です。

しのたけさんによると、流入したNaイオンが、まわりの陽イオンを反発することで押しのけ、その波が高くなり、電位が伝わると考えていると思います。このとき、SにあったNaイオンが、移動するのではなく、電位の高くなったNaイオンの波ができる現象です。

もしSにあったNaイオンが、Sから離れた方向に移動するならば、イオンの電荷が移動することになり、電流が流れたことと同じになります。

 

 

 

 

 

下の解説では、水面の変化が電位の変化でしょう。木の葉が移動しないことが、Naイオンが移動していかないことを表していると思います。

 

それでは、この伝導の状態をアニメで表してみました。白い○は、Naイオンです。細胞外の赤丸は、マイナスイオンです。細胞外の動きは、難しいためわかりません。

細胞膜の内外のプラスマイナスは、イオンの電荷を表しています。電位の高い低いは、表現できていません。

自分の頭脳では、これ以上、アニメで表現できません。あしからず。しのたけさんのサイトをご覧ください。

 

 

 

次に、跳躍伝導です。跳躍伝導は、有随神経にのみ存在する伝導の方法です。

 

その前に、無随神経と有随神経の違い、末梢神経と中枢神経の違いを勉強しておきます。

 

中枢神経では希突起膠細胞で、末梢神経ではシュワン細胞で軸索が幾重にも取り囲まれています。

この取り巻いている円筒形の鞘を随鞘(ミエリン鞘)といいます。随鞘は、コレステロールの含有率が高いので、電気的絶縁性が高いです。すべての中枢神経 と自立神経節後繊維と感覚神経(痛覚)以外の末梢神経が 随鞘を持っています。

人体の正常構造と機能 VII 神経系(1)から引用

 

 

 

 

中枢神経では、1個の希突起膠細胞が数本の軸索を包みます。末梢神経では、1個のシュワン細胞は1本の軸索を包みます。

ランビエ絞輪

随鞘は軸索の全長にわたって連続せず、1〜2mmの長さの節に分かれています。この随鞘の切れ目をいいます。ランビエ絞輪には随鞘がないんです。

絞輪部の軸索は、随鞘に覆われた部分の 軸索よりも太く、細胞膜にはNaイオンチャネルが 豊富です。

 

中枢神経のランビエ絞輪では、軸索は裸ですが、末梢神経では、シュワン細胞の細胞質の一部が残っています。また、随鞘がゆるんだような構造があり、シュミット・ランターマン切痕と言います。

 

 

 

次に、随鞘がないものを無髄神経といいます。

下の絵のように、シュワン細胞が数本の軸索を抱えるようにして包んでいますが、随鞘は形成されません。

自立神経節後繊維と感覚神経(痛覚)が無髄神経です。

軸索の太さや随鞘の有無によって、伝導速度が異なります。

軸索の経が太くなると電送速度は速くなります。

直径(um)X6 = 伝導速度m/sec)

有随神経のほうが無髄神経よりも、当然、伝導速度は速いです。

跳躍伝導とは

活動電位がニューロンの軸索を「飛び飛び」つたわっていくことでエネルギーのロスを抑え、かつ情報伝達を素早く行うという仕組みです。

なぜ、有随神経の跳躍伝導は、無髄神経に比べて、伝導速度がはやいのでしょうか。

軸索内に電流が流れている(局所電流)という考えによると、

随鞘が巻き付いている部分では、局所電流はほとんど細胞外へと流出せず、局所電位もより遠くまで大きな値を維持できると考えられています。

軸索内に電流は流れないという考えによると、

独立行政法人科学技術振興機構の「理科ネットワーク(一般公開版)」のページで、説明できるようです。https://rika-net.com/search.php?sc=0&keyword=%E7%84%A1%E9%AB%84%E7%A5%9E%E7%B5%8C

上のサイトで、跳躍伝導の仕組みのアニメのサムネイルをみれば、いいと思います。

 

興奮を起こす部分間の間隔が大きくて「時間のかかる一連の処理」つまり、Naイオンチャネルが開いてNa イオンが軸索内に流れ込むという一連の処理の回数が少ないほど、、伝導の小休止が少なくなり、電位の高い状態が波となって伝えられるため伝導速度が速くなると考えています。

 

追記

膜電位と活動電位の成り立ちについては、様々な学識者がほぼ同じような考え方をもっていると思いますが、活動電位の伝導という仕組みについては、様々な考え方があるようです。軸索内に電流(イオンの電荷の流れ)が流れているか、いないかで、意見が分かれるようです。

当方の頭脳では、このあたりの解説で締めくくるのがやっとでした。あしからず。