基底核について

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鳥類以下の動物にとって重要であった運動の中枢が、大脳の皮質が非常に発達したヒトでは、大脳の奥深く、つまり、髄質に、追いやられました。これを、大脳基底核といいます。この運動は、錐体外路系という神経回路で行われています。

ヒトは自発的に運動するとき、大脳の皮質からの指令(動かそうという意思)が神経を介して、脊髄に伝わり、手とか足の筋肉を動かします。この神経回路は、錐体路系といい、哺乳類になって、初めて、出現した特殊な運動系です

鳥類以下で使われている錐体外路系である大脳基底核は、ヒトでは、錐体路系による運動をなめらかかつバランスのとれた運動に仕上げます。鳥類以下の動物では錐体路がなく、この経路が運動伝導路のうちで最も重要な地位を占めています。

錐体路が解剖学的な実体であるのに対して、「錐体外路」という神経路は解剖学的には実在しませんこのことから、今日では医学臨床上の「錐体外路性疾患」という表現以外に、錐体外路という用語は不適切であるとして使用頻度が減りつつあります。

大脳基底核は手足のなめらかな運動のために、重要な領域です。

ヒトで、この大脳基底核が障害されて生じる運動障害は、大きく2つにまとめられます。

1つは、運動減少・筋緊張亢進(こうしん)型です。代表疾患は、パーキンソン病です。もう一つは、運動亢進・筋緊張減少型です。代表疾患はハンチントン舞踏病です。

パーキンソン病は、おおまかには、自分の意志とは関係なく、手足が細かく動いたり、筋肉が固くなります。一方で、動作が遅くなり、顔つきも表情がなくなります。

医療法人相生会福岡みらい病院機能神経外科 宮城 靖先生から提供いただいたビデオです。

両側の視床下核刺激療法という治療法で、治療前後のふるえが変化するのがわかります。

 

体のふるえが激しい患者さんのビデオです。

 

ハンチントン舞踏病は、自分の意志とは関係なく、顔をしかめたり肩をすくめるといった素早い動きのため、落ち着きがないようにみえます。安静臥床(がしょう)時よりも歩行時や何か動作をしようとしたり、緊張した時に強くなります。

さて、大脳が大きくなることで、基底核が小さくなり、脳内部においやられます。アニメで見てみましょう。

大脳半球が大きくなり、間脳と中脳とその周辺が小さくなっています。

 

 

 

 

 

 

 

アニメで脳の水平断面と前頭断面をみてみましょう。

 水平断面は、向かって、左側のように、脳を横切る断面です。これを立てて、見ています。

前頭断面は、向かって、右側のように、頭のてっぺんから地面に向かって、脳を見た場合です。

 

 

 

 

次に、これらの断面でみえてくるものをアニメで表してみました。

水平断面と前頭断面で、見てみました。水平断面では、上が顔、下が頭の後ろです。頭の上から、のぞく感じです。

さきほど、示した大脳基底核は、大脳の髄質中に大きな灰白質のかたまりとしてあります。

灰白質とは、何だっだでしょうか。神経細胞です。

そもそも、大脳の表層は、厚さ2〜4mmにわたって、灰白質が占め、大脳皮質といいます。灰白質と言われる理由は、神経細胞が密に集まり、灰白色をしているためです。

神経線維が豊富なところが、髄質(ずいしつ)といいます。

神経線維(しんけいせんい)は髄鞘(ずいしょう)というものでおおわれ、髄鞘が白いため、白く、髄質は白質ともいいます。

神経細胞のかたまりである大脳基底核が、灰白質の場所から、神経線維が豊富な白質に追いやられたのです。

 

では、大脳基底核(名称は大脳の底部にあるため)の種類は???

尾状核(びじょうかく)

被殻(ひかく)

淡蒼球(たんそうきゅう)がおもなもので、中脳の黒質や間脳の視床下核も含まれます。

大脳基底核を拡大して、詳しく見てみましょう。下のアニメで、赤いのは前頭葉、紫が側頭葉です。

この間(外側溝)から、内部に入ります。最初に、という領域が見えてきます。島の役割はのちほど。

左側が顔側で、右側が頭の後ろになります。頭部を横から見たアニメです。

島の奥に、被殻が見え、その奥に淡蒼球があり、次に、尾状核が現れます。

尾状核と被殻の間をいくつもの神経線維が走っている内包があります。

その奥に、視床があります。反対側の視床、内包、尾状核が現れます。

 

 

 

 

 

大脳基底核は、お互いの核の間で、神経線維を介して、連絡しています。

復習です。基底核は線状体尾状核と被殻を合わせる淡蒼球(外節と内節にわかれる、黒質(緻密部と網様部にわかれる)、視床下核などからなります。

線状体には、大脳皮質の広い場所から神経を介して、刺激が伝わっていきます。

のちに紹介しますが、大脳皮質の運動野、体性感覚野、認知機能にかかわる連合野、情動にかかわる前頭眼窩野や帯状皮質から、神経繊維を介して、刺激が被殻に伝わっていきます。視床と黒質から、尾状核と被殻に刺激が伝わります。

下のアニメの左側の脳で、青線で表しています。丸いところから、刺激が発射(はっしゃ)し、Yのところに刺激が伝わります。

逆に、赤い線では、線状体である被殻と尾状核から、それぞれ、淡蒼球の外節と内節と視床下核に、刺激が伝わります。

右側のアニメでは、被殻と視床下核、尾状核から、淡蒼球の外節と内節に刺激が伝わります。青い線で、示してあります。淡蒼球から、視床下核、視床に刺激が伝わります。赤い丸から、Yの字に刺激が伝わります。

黒質から視床へ、視床下核から黒質へ刺激が伝わります。

基底核と皮質との関係は、

大脳皮質ーー>大脳基底核ーーー>視床ーーー>大脳皮質というループ回路

大脳基底核は、脊髄との直接のつながりはありません。体を動かす神経は脊髄を通る必要がありますが、基底核に入出力する神経は、脊髄と関係ないのです。大脳の奥深くにある基底核で、なめらかで細かい運動を作り出しています。

 

さて、ここで、やや難しい話をしなければなりません。

上のアニメで示した入出力ですが、これらの神経の流れ方は、2つに整理できます。

1つは、線条体から淡蒼球内節や黒質網様体への直接に神経が流れる直接路です。

もう一つは、線条体から淡蒼球外節、視床下核を経由(けいゆ)し淡蒼球内節や黒質網様部へ流れる間接路です。

これらの神経の情報は、GABA(r-アミノ酸)という物質で、つぎの神経に伝えられます。下の図で、青い線で示したものがこのGABAの神経です。色々な神経がありますが、この神経の丸い部分が活発になると、GABAという物質がYの形をしたところから、出ます。線条体から淡蒼球外節、淡蒼球内節と黒質網様部へ、また、淡蒼球外節から視床下核へ、淡蒼球内節と黒質網様部から視床にはいる神経がこれにあたります。

GABAとはなんでしょうか。これは、神経の活動を弱める作用があります。このGABAを受けた神経は、つぎに情報をつたえるとき、弱くなります。

赤い線は、なんでしょうか。これは、Gluで表した場合、グルタミンという物質がY字から出ると、つぎの神経の丸いしるしを興奮させます。

ハイパー直接路と視床から皮質に入る神経では、興奮させる物質は、Gluでない別物です。

淡蒼球内節と黒質網様部が抑制されて弱くなるか、刺激されて興奮するかで、視床の活動が決まります。

視床の神経活動が活発になると、大脳皮質の運動野が刺激されて、運動が亢進(こうしん)します。

逆に、抑制されると運動が低下します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に、普通の状態でのこのハイパー直接路、関節路と直接路の関係を見てみましょう。

下のアニメを見ながら、考えてください。

結論です。基底核を有する哺乳類では、まず、@大脳皮質からの信号で、ハイパー直接路が活発になり、淡蒼球内節・黒質網様部のニューロンの活動も活発になり、視床ー大脳皮質のニューロンが抑えられ、運動が低下します。

A次に、直接路を経由する信号が活発になり、淡蒼球内節・黒質網様部のニューロンの活動を押さえ、視床ー大脳皮質のニューロンが活発になり、運動が亢進します。

B最後に、間接路の信号が活発になり、淡蒼球内節・黒質網様部のニューロンの活動も活発になり、視床ー大脳皮質のニューロンが抑えられ、運動が低下します。

つまり、この流れで、運動はいつも抑えられる傾向(けいこう)で、必要でない運動をコントロールしています。このなかで、正確なタイミングで、必要な運動ができるようにしています。

パーキンソン病について

その前に、さきほどの図で、黒質緻密部(ちみつぶ)の話がありませんでした。この場所からは、ドーパミンという物質が常時出て、線状体のD1とD2という場所に作用しています。赤い線は興奮させる神経、青い線は抑える神経を表しています。ドーパミンは、興奮と抑制の両方を持っていることになります。アニメでは、黒い点です。

黒い点のドーパミンの動きを見てください。D2とD1に働いて、

最終的に、視床では神経が、どちらの経路でも興奮します。

ドーパミンは、この神経回路で、運動を積極的に興奮させているのです。

パーキンソン病は、この黒質緻密部から分泌されるドーパミンが少なくなっている病気のようです。

ここで、単純に考えると、ドーパミンが少ないと、体の運動が極端になくなります。無動化といって、体が動かないのは、このドーパミンがないためでしょう。

小刻みな動きは、なめらかさがないため、生じています。

両側の視床下核刺激療法という治療法で、治療前後のふるえが変化するのがわかります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大脳基底核の話は、これくらいにします。

 

大事なことを1つ。

アニメの水平断面で、内包前脚と内包後脚があります。内包とは、大脳皮質と大脳基底核の間をどちらのほうからも連絡する神経線維の通り道です。くの字の反対にみえる内包で、曲がり角から後脚にかけては、大脳皮質から脊髄に神経線維が走り、運動出力繊維が混じっています。

一方、大脳基底核の領域には、以下のアニメのように、たくさんの血管が分布しています。

 

これらの血管は、穿通枝(せんつうし)といって、内頸、後交通、中大脳、前大脳、後大脳動脈の大きな血管の分枝で、脳の組織に入り込み、間脳や基底核に分布しています。

中大脳動脈の分枝であるレンズ核線状体動脈は、淡蒼球と被殻、内包膝を支配し、脳卒中動脈と言われ、しばしば出血します。

中大脳動脈の出血が内包後脚に及ぶと、運動神経の中枢部が破壊され、片麻痺(かたまひ)が生じ、手足が動きません。

脳出血が発生しやすい場所は、内包付近で、被殻と視床が高い頻度(ひんど)です。

 

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